
「成年後見人が不動産売却をするにはどうすればいい?」
判断能力が不十分な親族の財産管理を担う「成年後見人」。
中でも不動産の売却は、家庭裁判所の許可が必要となるなど、通常とは異なる手続きが求められます。
本記事では、成年後見制度の基本から、後見人が不動産を売却する際の流れ、注意点までを詳しく解説します。
成年後見人による売却手続きをスムーズに進めたい方はぜひ参考にしてください。
- 成年後見制度の基本と後見人の役割
- 後見人による不動産売却の具体的な手続き
- 家庭裁判所の許可申請と注意点

監修者
松屋不動産販売株式会社
代表取締役 佐伯 慶智
住宅・不動産業界での豊富な経験を活かし、令和2年10月より 松屋不動産販売株式会社 にて活躍中。それ以前は、ナショナル住宅産業(現:パナソニックホームズ)で8年間、住友不動産販売で17年間(営業10年、管理職7年)従事。
目次
成年後見制度とは判断能力が低下した人を支援するための制度
成年後見制度とは、認知症や知的障がい、精神障がいなどによって判断能力が不十分になった方の権利や財産を法律的に保護し、本人が安心して日常生活を送れるよう支援する制度です。
成年後見制度では、家庭裁判所が本人に代わって財産管理や各種手続きを行う「成年後見人」を選任します。
選任された後見人は本人の利益を最優先に考え、法律上の権限を持って代理業務を遂行します。
成年後見人には次のような特徴・役割があります。
- 預貯金や有価証券、不動産などの財産を本人に代わり適切に管理する
- 本人に代わり各種契約や行政手続きの代理・支援を行う
- 本人の日常生活に必要な費用や介護・医療費用などを管理し支払いを代行する
- 財産管理や生活支援の状況を定期的に家庭裁判所へ報告する義務を負う
後見制度の利用により、本人は悪質な契約や詐欺などの不利益な事態から守られるだけでなく、日常生活での判断や契約行為が円滑に進み、安心した暮らしが可能になります。
また、成年後見人は家庭裁判所の監督下に置かれており、後見人自身が独断で財産を使うことは許されていません。
そのため、制度自体が本人の権利と財産を安全に守る仕組みとして確立されています。
非居住用不動産を売却する際は許可は不要
成年後見人が不動産を売却する際、空き地や駐車場、アパートやマンションなど賃貸に出している物件など、被後見人が居住していない不動産については、家庭裁判所の事前許可は法律上必要ありません。
なぜなら居住用不動産に比べ、本人の日常生活や居住環境に直接的に影響を与えないためです。
ただし、許可が不要だからといって、成年後見人が自由に処分して良いというわけではありません。
後見人には財産を適正に管理する「善管注意義務(善良なる管理者の注意義務)」が課されており、常に被後見人の利益を最優先に考え、公正かつ妥当な判断を下す必要があります。
そのため、不動産の売却にあたっては、売却理由や価格の妥当性について十分に検討し、判断根拠となる書類や査定書を用意して家庭裁判所に事前に報告・相談を行うことが望ましいとされています。
成年後見人による居住用不動産の売却の流れ
成年後見人による居住用不動産の売却の流れは、以下のとおりです。
- 複数の不動産仲介業者に査定を依頼する
- 不動産仲介業者と媒介契約を締結する
- 家庭裁判所に売却許可の申し立てを行う
- 売却許可が得られたら買主と売買契約を締結する
- 売却代金を受け取り引き渡しを行う
居住用不動産を成年後見人が売却するには、通常の不動産売却と異なり、家庭裁判所の許可を得る手続きが加わります。
ここではそれぞれの手続きについて解説していきます。
実務では、家庭裁判所が売却を許可しないケースもあります。
被後見人の生活費や介護費用との関係、売却の必要性や妥当性を十分に検討した上で手続きを進めることが重要です。
複数の不動産仲介業者に査定を依頼する
成年後見人として不動産売却を行う際、まず重要なのは査定価格の把握です。
不動産の査定額は業者によって大きく異なる場合があり、1社だけの査定で判断すると相場よりも低い価格で売却してしまうリスクがあります。
査定額の正確性や公平性を確保するためにも、最低でも3社以上の不動産業者に査定を依頼しましょう。
査定を依頼する際は、ただ金額だけを確認するのではなく、各業者が提示する査定価格の根拠や、どのようなデータに基づいているのかを細かく確認する必要があります。
市場価格の推移や近隣物件の取引事例、地域の将来的な価格動向など、具体的で信頼性の高いデータが揃っている業者ほど信用できます。
成年後見人には、被後見人の利益を最優先に守る責務が課されています。
そのため、不動産を適正な市場価格で売却するために、根拠となる情報を十分に集め、客観的で公正な視点から売却価格を設定することが求められます。
査定段階で丁寧に対応してくれる業者を選定することが、後々の売却活動を円滑に進める上でも重要です。
不動産仲介業者と媒介契約を締結する
査定結果を比較検討し、信頼できる不動産仲介業者を決定したら、次のステップとして媒介契約を結びます。
媒介契約には主に「一般媒介契約」「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」の3種類があり、それぞれに特徴やメリット・デメリットがあります。
項目 | 一般媒介契約 | 専任媒介契約 | 専属専任媒介契約 |
---|---|---|---|
他業者への仲介依頼 | 可能 | 不可 | 不可 |
自己発見取引(自分で買主を見つけた場合の直接契約) | 可能 | 可能 | 不可 |
募集状況の報告 | なし | 2週間に1回以上 | 1週間に1回以上 |
レインズへの登録期限 | 登録義務なし | 契約締結後7営業日以内 | 契約締結後5営業日以内 |
契約期間の上限 | 制限なし | 3ヶ月以内 | 3ヶ月以内 |
成年後見人が契約を締結する場合、裁判所への手続きの透明性や取引の進捗管理を重視する観点から、専任媒介契約または専属専任媒介契約を選ぶケースが一般的です。
媒介契約を結ぶ際には、不動産仲介業者の信頼性や実績を事前に確認することが重要です。
宅建業の免許番号や所属団体、過去の仲介実績、担当者の対応などをよくチェックしましょう。
また、業者の仲介手数料や販売活動計画の内容が適正かどうかも検討する必要があります。
契約後には裁判所提出用に媒介契約書や業者概要書を揃えておくと、その後の手続きが円滑に進みます。
家庭裁判所に売却許可の申し立てを行う
不動産業者と媒介契約を締結したら、次に家庭裁判所に対し「居住用不動産売却許可の申し立て」を行います。
申し立てにおいては、売却する理由(介護費用捻出や生活費確保など)、設定した売却価格の根拠、査定価格、購入希望者の有無などを具体的かつ詳細に記載します。
また、主な提出資料は以下のとおりです。
- 不動産業者作成の査定書
- 不動産業者との媒介契約書
- 不動産の登記事項証明書
- 固定資産評価証明書
- 売買契約書の雛形
家庭裁判所は提出された書類をもとに、被後見人にとって売却が本当に必要か、売却価格は適切かなどを慎重に審査します。
必要に応じて裁判所から追加資料の提出を求められたり、成年後見人が審問(裁判所との面談)に呼ばれたりすることもあるため、申し立てから売却許可が下りるまでの期間は数週間から1ヶ月程度かかると考えておきましょう。
売却許可が得られたら買主と売買契約を締結する
家庭裁判所から正式な売却許可が下りた後は、いよいよ買主と正式な売買契約を締結します。
売買契約書の作成にあたっては、裁判所の許可内容(売却許可日や許可番号、裁判所の名称)を正しく反映しているかを念入りに確認します。
裁判所から許可された条件と契約書の内容が異なる場合、契約が無効となったり再許可を求められたりする場合があるため注意が必要です。
また、成年後見人が売買契約書に署名・押印する際には、被後見人と後見人の立場を明確にするため、「〇〇(被後見人の氏名)成年後見人〇〇(成年後見人の氏名)」と明記する必要があります。
取引におけるトラブルを避けるため、司法書士や不動産業者の立ち会いのもと、契約内容を慎重に確認したうえで締結しましょう。
売却代金を受け取り引き渡しを行う
売買契約が無事成立したら、最終段階として決済・引き渡しを行います。
決済日には、売却代金を成年後見人が受領し、引き換えに買主へ不動産の鍵や権利証(登記識別情報)などを引き渡します。
売却代金は後見人が管理するものの、あくまで被後見人の財産であるため、後見人自身の財産とは明確に区別し、適切に管理・保管します。
さらに、売却代金の管理や諸費用の支払い状況を記録した収支報告書を作成し、家庭裁判所へ提出する必要があります。
裁判所への報告は、成年後見人の責任を果たしたことを証明するとともに、透明性を確保してトラブルを防止するためにも重要です。
後見人としての役割を円滑に完了させるため、記録や書類管理を丁寧に行い、裁判所の指示や監督に従って対応しましょう。
成年後見制度を利用して不動産を売却するなら松屋不動産販売株式会社
成年後見人として不動産を売却する場合、一般的な不動産売却に比べて手続きが複雑で、専門的な知識や慎重な対応が求められます。
特に家庭裁判所への売却許可申し立て、査定額の適正な判断、売却後の報告義務など、法律面と不動産実務の両方に精通した専門家のサポートが不可欠です。
松屋不動産販売株式会社では、これまで成年後見人の不動産売却を数多く手がけており、豊富な経験と専門知識を持ったスタッフが在籍しています。
成年後見人の立場や不安に寄り添い、物件査定・販売戦略の策定・裁判所提出書類の準備まで、きめ細やかなサポート体制を整えています。
また、後見制度の特性を理解したうえで、丁寧かつ迅速な対応を心がけており、「初めて後見人として不動産を売却するため不安」「煩雑な手続きを任せたい」という方にも安心してご依頼いただけます。
成年後見制度に精通した信頼できる不動産業者をお探しの場合は、ぜひ松屋不動産販売株式会社にご相談ください。
まとめ
成年後見人が不動産を売却する場合、特に居住用不動産の売却においては、家庭裁判所の許可が必要になるなど、一般的な不動産取引よりも煩雑な手続きや厳格な審査が伴います。
複数の業者に査定を依頼したり、適切な不動産仲介業者を選んで媒介契約を締結したり、裁判所への申し立てを丁寧に行うなど、慎重に各段階を進める必要があります。
判断能力が低下した本人の大切な財産を守り、安心して取引を進めるためには、成年後見制度の特性を深く理解した信頼できる不動産業者との連携が不可欠です。
松屋不動産販売では、成年後見人の立場に寄り添い、不動産売却に関する複雑な手続きを丁寧にサポートします。
売却を円滑かつ確実に進めたいとお考えの方は、ぜひお気軽にご相談ください。